FORTH理論計算 #004:Sgr A*とM87の比較解析
概要
FORTH理論の普遍性を検証するため、質量が1500倍異なる2つのブラックホール(M87と天の川銀河中心Sgr A)を比較解析した。両者で理論的枠組みが整合的に適用できることを確認し、Sgr Aでジェットが観測されない理由を降着率とエネルギー密度の観点から定量的に説明した。
対象天体の基本パラメータ
M87ブラックホール
質量: M = 6.5×10⁹ M☉ = 1.293×10⁴⁰ kg
シュワルツシルト半径: Rs = 1.920×10¹³ m (128.3 AU)
距離: 16.8 Mpc
降着率: ~10⁻³ M☉/yr(活動的)
Sgr A* (天の川銀河中心)
質量: M = 4.3×10⁶ M☉ = 8.55×10³⁶ kg
シュワルツシルト半径: Rs = 1.270×10¹⁰ m (0.085 AU)
距離: 8.3 kpc
降着率: ~10⁻⁹ M☉/yr(非常に低い)
比較
質量比: M87/SgrA = 1512
Rs比: 1512(質量に比例)
降着率比: 10⁶(M87が100万倍高い)
トーラス構造パラメータ
推定方法
降着率とブラックホール質量から、トーラス構造を推定:
-
M87: 活発なジェット活動から逆算
- R = 10 Rs(観測的制約)
- r = 3.5 Rs(ジェット開口角から推定)
- R/r = 2.86
-
Sgr A*: 低降着率を考慮
- R = 5 Rs(よりコンパクト)
- r = 0.05 Rs(薄いトーラス)
- R/r = 100
主要計算結果
1. ジェット速度の理論予測
FORTH理論の基本公式:
v/c = √(1 - (r/R)²)
M87:
R/r = 2.86
v/c = √(1 - (1/2.86)²) = 0.937
γ = 2.86
Sgr A*:
R/r = 100
v/c = √(1 - (1/100)²) = 0.99995
γ = 100
2. エネルギー密度解析
降着パワー
L_acc = η × Ṁc² (η = 0.057: 標準降着効率)
M87: L_acc = 3.6×10³⁸ W
Sgr A*: L_acc = 3.6×10³² W
比率: 10⁶
トーラス体積
V = 2π²Rr²
M87: V = 5.7×10⁴⁸ m³
Sgr A*: V = 1.6×10³⁵ m³
比率: 3.6×10¹³
エネルギー密度
ρ_E = L_acc / (V×c)
M87: ρ_E = 6.3×10⁻¹⁷ J/m³
Sgr A*: ρ_E = 2.1×10⁻⁹ J/m³
結果: Sgr A*の方がエネルギー密度は高いが、絶対値が小さい
3. ジェット形成条件
臨界エネルギー密度
M87で観測されるジェット活動から、ジェット形成に必要な最小エネルギー密度を推定:
ρ_critical ~ 10⁻¹⁸ J/m³
判定
| ブラックホール | エネルギー密度 | 臨界値との比 | ジェット活動 |
|---|---|---|---|
| M87 | 6.3×10⁻¹⁷ J/m³ | 63倍 | ○ 強いジェット |
| Sgr A* | 2.1×10⁻⁹ J/m³ | 2.1×10⁹倍 | ○ 理論上可能 |
注: 両者とも臨界値を超えるが、Sgr A*では降着率が極端に低いため、実際のジェット質量流出率が観測限界以下
4. W軸周期(消失時間)
T_W = 2πr/c
M87:
T_W = 2π × 6.72×10¹³ m / c = 1.41×10⁶ 秒 = 16.3 日
Sgr A*:
T_W = 2π × 6.35×10⁸ m / c = 13.3 秒 = 0.22 分
5. 観測的検証
角直径(シュワルツシルト半径の見かけの大きさ)
θ = 2Rs/d (d: 距離)
M87: θ = 74 μas(マイクロ秒角)
Sgr A*: θ = 63 μas
両者ともEvent Horizon Telescopeで解像可能。
ジェット観測状況
| 項目 | M87 | Sgr A* |
|---|---|---|
| ジェット速度理論値 | 0.937c | 0.99995c |
| ジェット観測 | 強い、5000光年 | 未検出 |
| 理由 | 十分な降着率 | 降着率不足 |
物理的解釈
なぜSgr A*でジェットが見えないか
- 降着率が極端に低い: M87の100万分の1
- 質量流出率が小さい: 観測限界以下
- 放射効率が低い: 低光度AGN状態
ただし、理論的にはジェット形成は可能(v/c = 0.99995)。
スケーリング則の妥当性
質量が1500倍異なっても、FORTH理論の基本方程式は適用可能:
- ジェット速度公式は普遍的
- R/r比が異なれば速度も変化
- エネルギー条件が満たされればジェット形成
比較図表
詳細な可視化データは記事下部の「詳細データ」を参照
対数スケールでの主要パラメータ比較(M87を1として正規化)。
計算の検証方法
手計算での確認
-
質量比:
M87/SgrA = (6.5×10⁹)/(4.3×10⁶) = 1512 -
ジェット速度(Sgr A*):
v/c = √(1 - 1/100²) = √0.9999 = 0.99995 -
W軸周期(Sgr A*):
T = 2π × 6.35×10⁸ / 3×10⁸ ≈ 13 秒
計算コード
完全な計算コードは GitHubで公開しています:
python
python calculation.py
結論
M87とSgr A*の比較解析により、以下を確認した:
- 理論の普遍性: 質量スケールが3桁異なっても適用可能
- ジェット速度の一貫性: 両者とも相対論的速度を予測
- 観測との整合性: Sgr A*のジェット非検出を降着率で説明
FORTH理論は異なるスケールのブラックホールに対して整合的な予測を提供し、観測結果とも矛盾しない。
データファイル
注記: Sgr A*のトーラスパラメータは降着率から推定した理論値。将来の観測により検証が必要。
📊 Detailed Data
※ FORTH理論は理論的仮説です。現在検証段階であり、観測による実証を待っています。建設的な批判やご意見を歓迎いたします。